Medical News Japan

イギリス:医の倫理について・・・

The minefield of medical morals
医学の倫理の地雷原が広がっている
BBC 2008/08/01

By Daniel Sokol (医学倫理学者:Medical ethicist)

 医の倫理のジレンマのニュースを目にしないで1週間を過ごすことはほとんどありません。時々、「医学倫理学者(Medical Ethicist)」という文字がスクリーンや紙の上に現われます。しかし、我々は実際に何やっているのでしょうか?

 次のようなケースを考えてみましょう

 18歳のスーザンは自分の片側の腎臓を父親のジョンに移植したいと考えました。腎移植しないと、父親はすぐに死んでしまいます。彼は腎臓病の末期で、移植の待機リストでは数年も先になっていました。彼の妻は2年前にがんで死亡していました。

 ルーチンの血液検査を行ったところ、医師らは予想もしないことを発見しました。ジョンはスーザンの実の父親ではなかったのです(John is not in fact Susan's biological father.)。幸いなことに、二人は適合していました。しかし臨床医たちは、スーザンと彼女の父親に、この事実を明らかにすべきでしょうか?また、医師らはこのことを黙ったまま移植を行うべきでしょうか?

 私が、オックスフォード市内の医師、患者、市民ら数百人に問いかけたところ、結果は各グループで同じでした。約2/3が医師らはこの情報を秘匿にすべきで、残り1/3は患者に伝えるべきだと回答していました。
 北アメリカでは、多くの病院が医学倫理学者を雇用しています。


 このスーザンと父親のケースに直面した際に、この医師は待機中の倫理学者に相談のために連絡をとりました。倫理学者は、医師らが鍵となる倫理的問題や法的な問題を特定するのをサポートしました。
 倫理学者は、このケースの事実を明確にし、同じような過去のケースを調べ、関連するガイドラインを見つけ、倫理的な原則を適用し、臨床医が道義的にしっかりした決定を行うのを支援します。

 同じようなケースがカナダで生じたとき、倫理学者は患者に伝えることを推奨してきました。娘と父親はショックを受けましたが、伝えたことに対して感謝しました。移植は予定どおりに行われました。

 イギリスではまだまだ

 イギリスでは、病院内に常勤の倫理学者はいません。医療チームは、自力で決断を下すか、法的な助言を求めるか、あるいは病院に臨床倫理委員会があれば討議にかけるでしょう。

 すべての医学倫理学者は同じとは限りませんが、医学倫理学者の大半の時間は医師や看護師や医学生に倫理学を教えたり、学術誌に投稿したり、病院の倫理的なケースや医学研究の申請を討議する委員会に出席などにあてられています。

 もっと積極的に発言する倫理学者たちは、メディアの仕事もしています。1週間に一度、私は医学倫理の話題となっている問題についてジャーナリストと話ます。

 たとえば、「Sokol博士、Ashley Xの事件(身体障害のある少女の両親が介護がしやすくなるように彼女の成長を妨げたケース)はどう思いますか?」です。あるいは「あなたはMs Aの事件(10代の少女が彼女の主治医に自分の父親から虐待されていると告げられたが、その医師にはこのことを秘密にしておいてと伝えられた事件)」

 あるいは「もうダメだと医師が考えても、重度の障害のある新生児に、延命治療をすることを両親が主張し続けることは許されるでしょうか?」

 我々は、こういった話の一方側から話を聞くこと(たとえば、両親の考えは聞けても、コメントしないように教えられている医師の考えは聞けません)がよくあります、私は、実際的にかつ、注意深い分析を行うようにしています。

 ちょうど、医師が患者について適切な検査結果なしでは、医学的な助言をしたがらないように、医学倫理学者たちは、事実の徹底的な調査を行わないまま、詳細な見解を与えたくはありません。

共通のケース

 大きく報道されたケースはドラマティックですが、比較的まれです。大半の臨床医は、結合体双生児を分離する生死をわける判定や障害児の成長を止めるための高用量のエストロゲン投与などのケースには直面していないでしょう。

 たいていの倫理学的ケースはもっとありふれたものです。

 病気の診断書を、おそらく病気でない患者に求められた時、開業医はどうすべきか?

 若手医師が、今まで一度も行ったことがない手技を行うことを患者に伝えるべきか?

 このようなケースについて考えるためにあなたの時間を費やす時、このようなジレンマは知的訓練なんかではなく、このような出来事は実際の個人に影響することだと思い出すのは時として難しいかもしれません。

 分析と論議について焦点を強く当てることで、外科医のメスのように研ぎすませるように、我々は、人間と情緒的な次元を忘れることが可能になります。

問題解決

 カナダの著名な医師、ウィリアム・オスラー医師は医師は冷静な頭脳と親身なハートが必要(doctors should have a cool head and a kind heart)であると語っています。おなじことは医学倫理学者にも当たっています。

 おそらく、医学倫理学者は全員、問題を解決する喜びを分かち合っているでしょう。

 倫理学者は簡単に何が正しく間違っているか即座に知っているので、倫理学者というのは道義的なジレンマを経験しないという考えをする人もいるようですが、私のあるケースについて、当初の反応が「私に何を勧告すればいいかわかりません」ということもあります。

 通常、私は解決の成り行き(ケースの核心にせまる事実の発見、可能なオプションの特定、賛否両論の比較、もっとも倫理的で現実的な解決案にたどりつく)を楽しんでいます学校では、私は人文学と科学の間で板ばさみになっていました。

 ある日、私はフランスの血液学者で、生命倫理学者のJean Bernard前教授がテレビでインタビューを受けているのをみました。彼は、発展途上国で、家族を養うために腎臓を売る必要がある勤勉な農民の話をしていました。

 私は「どんなに痛ましく、心惹かれる」考えていたことを思い出しました。哲学と医学を組み合わせる医学倫理は、人文学と科学の完全な和解です。

 医学における倫理的な思考がますます必要となって(部分的には技術の発展の結果ですが)、イギリスでは、この分野に興味を持つ臨床医や非臨床医のための講座がますます増えています。

将来

 医学倫理は新たな分野です。数年以内に、イギリス国内のいくつかの病院では医学倫理学者が雇用されて、医学専門家たちが倫理問題に対処したり、病院のポリシーの起草するのを支援したり、倫理的なトレーニングをするようになるでしょう。
 すでにごく少数の病院では、パートタイムで倫理学者を雇用しています。

 たとえ病院の倫理学者が不在であっても、あなたがもしも医療上の倫理的な問題と格闘する患者や親類であるならば、病院の臨床倫理委員会に連絡をとりたいと考えるかもしれません。

 倫理委員会の中には、患者から持ち込まれたケースについて考慮することを喜ぶでしょう。彼らもいつも問題を解決するとは限りませんが、彼らは委員会を通して、あなたが考えるのを支援するでしょう。

 Daniel Sokol博士は、ロンドンのSt George大学の医学倫理学者で、インペリアルカレッジの臨床倫理講座(ACE:Applied Clinical Ethics)の講座主任。
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The minefield of medical morals


BBC 2008/08/01

オスラー医師について:財団法人 ライフ・プランニング・センターより

 オスラー博士(1849-1919)は、カナダに生まれ、北米および英国で活躍した医師です。医学生を患者のベッドサイドで教育することや、医学は「サイエンスに基づいたアート」であるという全人医療の考え方を提唱されました。それに加えて、哲学、文学、宗教など多方面にわたる深い学識に根ざした講演集『平静の心』によっても有名です。

2008年08月04日:イギリス:skyteam2007

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